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無知蒙昧

読みたい本をすきなだけ

ハッピー・バースディ/新井素子 をオススメします

初読じゃないのに「読みました」はなんか嫌なので「オススメします」にしました。

何故この本なのか?

今日は私の誕生日だからです。歳取りたくないよ〜〜!!

で、この本は新井素子さんの中でもかなり精神のやられる1冊です。
まずはあらすじから。

やさしい夫がいる幸せな家庭。そのうえ、小説家としても成功し、何にも不足のない日々だったのに…。何の意味もない、偶然の出逢いが、すべてを壊してゆく−。

新人賞をとったばかりの小説家であり、幸せな家庭を持つ梧藤茗こと後藤あきらと、ひとり暮らしで浪人中、束縛の強い母に怯える市原裕司。
対照的なふたりがただの偶然で出会ってしまったその日から、お互いがあるべきところに収まるまでを描いた話です。

ハッピー・バースディ。暖かみのある題名とは正反対の薄暗い結末は必見。

ぶっちゃけ誕生日に読む本ではない

分類としてはサイコホラー?
スマホが普及した今、手紙と固定電話の怖さが良くわかることうけあい。新井素子さんの三人称のような一人称のような文体がいっそうそれを助長します。

後述しますがメインのふたりのどちらにも肩入れできない感じなので、読む人を選ぶかも。
私は鬱々しいの好きなのでこの本も好きです。笑

以下心に刺さったところを列挙。
ネタバレあります。



同情できるけど共感は全くできない

あきらは紛れもない被害者です。流花ちゃんを巻き込むやり方は嫌だなとは思いましたが、まあ復讐するのも分かるし夫が死ぬってだけで普通に可哀想。

でも共感はできませんでした。

第1に、夫であるきーちゃんに依存しすぎてるのがこわい。自覚があるだけマシなのかない方がいいのか分かりませんが、全てをきーちゃんに依存している彼女の歪みがこわい。

第2に、新井素子さん特有の文体とマッチしすぎて口調が大分うざったくなっちゃっているところ。悪気は勿論ないだろうけど。

「も、すたすたすたすた、どんどんどんどん帰ってきて!もう電車ないよね、タクシーあたしが奢っちゃうから、しゃかしゃかずんずん帰ってきてっ」
(中略)
「おっけー。沢木のお義母さんからもらった梅干しのいいのがあるから、梅素麺作っとくわ。つけ汁に梅酢を混ぜて、ペースト状にたたいた梅干しと大葉を薬味にするから、おいしいぞおっ」

この独特なくどさね。この人の別の話の別のキャラだとあんまり苛立たないんだけど、依存気味のあきらがこれで喋るとなんかこわい。(酷い)
このころ「最悪の時」を過ごしていた祐司が腹立つのもまあ当然かなーと思いました。ストーカーはよくないけど。

私にとってあきらは、なんかとっつきにくくて知り合いにいたら多分苦手なタイプだけど、客観的に見れば大分可哀想な人。という感じでした。


遺書のところは共感できた

1行前と真逆なことを書きますが、笑 後半、あきらが遺書を書くのに悩むところ等は結構共感できました。

“生きているのが辛いし”、“生きている必要はないって思っていても”……それでもそれは、“生きているのをやめたい訳ではない”。──言い換えれば、“死にたくない”。“死ぬのは、嫌だ”。

わかるなーー。死にたくはないけど生きるのめんどくさい時ある。
このあたりのあきらなりの理論は結構分かりやすくて、これまでよりかなりすっきりした文章でした。


一方祐司はというと

こいつは許せませんなあ。彼にも同情する所多々ありましたが、許せない所もありました。

確かに彼は成長しました。受験とか家族関係で鬱屈としてしまって、そこにあきらの幸せを見せびらかされるようにされて思わず腹立てるところまではほんとに可哀想だと思いました。

でもやっぱり1度やったことは変わらないよ!(大声)
読み返す度に思うのですが、こいつの所業は悪戯にしてはやたら効果的すぎます。笑 偶然ってこわい。

また、地の文もあきらも「これは逆恨みだ」と述べてありますが、別に逆恨みではないと思います。
きーちゃんの死への直接的な原因ではありませんが、あきらの精神が救いようのないぐらい摩耗したのはたぶん祐司のせいだから。

反省してるかも怪しいってちょっと思っちゃうんですよね。全部正直に話して流花ちゃんに許してもらえてよかったねとは思うんですけど。
多分祐司と流花ちゃんのふたりが出した結論は間違ってないけど、お互いの事情を知っている読者としてはしっくり来ませんでした。

まああきらもあきらで自己完結してるので、この終わり方が1番なんでしょうね。


でも1番わからないのはこの人

祐司の母!!!!この人いやだ!!!!!!笑
終盤、祐司とお母さんが電話するシーンはなんかすっきりするので好きです。

そもそも祐司の鬱屈の原因は母にもある訳じゃないですか。この辺の事情についてはほんとに同情しました。

きーちゃんも客観的に見るとおかしい。
なぜあきらにそこまで…… 愛の力なんですかねえ。 現実から逃げないために敢えて文章を書かせるっていう思考がやばいと思います。この話の登場人物みんなちょっと歪んでます。

流花ちゃんはいい子なので幸せになって欲しい。


おわりに

誰にも共感できないけれどみんなの行動原理が分かるだけに怖いし切ないサイコホラー。

最後の壊れてしまったあきらは見てられませんね。あれが1番怖かった。
きーちゃんが望んでいた文章との関わり方では絶対ない。完全に現実から逃げきれてしまったんだなあ……と。


同じ作者で『おしまいの日』というのがあります。
こちらも依存型の奥さんの話ですが、「ハッピー・バースディ」と違ってひとりでどんどんどんどん突っ走っていく系の怖さ。また違う家庭内(?)ホラーをお楽しみの方にオススメ。

あと、星へ行く船シリーズというのがあるんですけど、ちょっと前に新装版が出ていたのでぜひお迎えしたいです。
文章も手直しされているようですし…… まあ私そもそも1巻しか読めてないんですけど……

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。