読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

無知蒙昧

読みたい本をすきなだけ

慟哭/貫井徳郎 を読みました

こんなミステリーが読みたかった

こういう暗くて読後感がお世辞にもいいとは言えない推理小説が読みたかったんだ!!!!!(大声)

百鬼夜行シリーズ(京極夏彦さん)も暗くて読後感も大体良くはないので激好みなんですけど、「推理小説」ではないのが違いかな〜と。事件は起きますけど。

貫井徳郎さんの本を読むのはこれで3冊目なのですが、絶対落ちました。完璧にハマってしまった……

連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。

若手キャリアの課長をはじめとした警察サイドと、謎の男の視点が交互に語られていく構成になっています。
どこがどんな風に繋がるんだろう?と考えながらじっくり読むのがおすすめ。よく読むとしっかり「あれ?」という所が作られているよ…ちゃんと作ってある……


新興宗教組織の「ありそう」な描写を読んでほしい

作中に新興宗教組織が出てくるのですが、一歩引いた所にいる読者だからこそ分かる歪みが本当に「ありそう」な感じでいい。
少しやり過ぎ、誇張し過ぎな感じは受けましたが、99年の作品だからそう思うのかな〜と。18年前……

警察の中でも、「自分の方が立場が上だと散々アピールしておきながら、ふと弱気になって後から機嫌を取ろうとする」「わざわざ遠回りをして自分より出世するかもしれない後輩に嫌味を言いに行く」など、あ〜こんな人いてもおかしくない、という描写がいくつかあります。

貫井さんはこういう「いそうな人」「ありそうな場面」を書くのが上手いと思うんですね……
そこがデビュー作から既に滲み出ている。

以下好きなところを列挙。
ネタバレあります。



堂々と「ご落胤」呼びができる石上さんはファンキー

落胤ってなかなか聞かないですし言えませんよ。石上さんは度胸ありすぎ。
佐伯さんを邪魔に思いつつ、同じキャリアとしてノンキャリアのことを愚痴るこの関係性もよい。


警察とマスコミの微妙な関係性

まず説明が簡潔で分かりやすい。
岡本さんと谷尾さんのにこやかな駆け引き、いいなあ。

あと、岡本さんの息子が受験合格したところは唯一心が暖かくなりました。そして切なくなった……


教団の教えのこと

よくこんなにありそうな宗教のありそうな教えが思いつけるなあと思いました。
教祖の大演説とか、いかにも筋が通っていそうで面白い。
そして感動する何人もの聴衆。佐伯さんが「見つけた、見つけた」と涙を流していたんだと思うと切ない。
まず「信頼できる宗教」を探して縋りつこうとしている佐伯さんがつらい。

あのあと沙貴さんはどうなっちゃったんだろう……
というかどういう経緯で儀式の生贄になったんだろう……

司摩さんが裏ボスなのもよかったです。
沙貴さんに血を塗る時に愛しげな動きで歓喜の表情なのが、お前結局私欲だったのかい?と思いました。良き。
怪文書を送り付ける周到さもポイント高いです。宮崎勤の送った文書とぼんやり似ていると思ったら、参考文献にそれ関連のものがあって納得。


佐伯さんには同情するんだけど

浮気してるんですよねこの人〜!よくないねそれは!
出生とか、結婚の経緯とか、色眼鏡で見られていることに関しては本当に悲劇的で好みなんですけど……
頑張っているのに冷たい目で見られてしまうところとか……
しっかり浮気して自分の居場所をつくっているところに佐伯さんの強かさと人間味を感じる。


「佐伯」さんと「松本」さん

違和感もヒントもたくさん与えられている……やさしい……
あ〜あれはここのことか!とパズルを嵌めるように楽しく読めました。

  • 佐伯さんは婿入り(元々の苗字がある)
  • 松本さんは「職業柄3時間でも眠れればありがたいという日々を過ごしていた」
  • 度々松本さんが「どこかでお会いしませんでしたか」と聞かれている(警視時代の記者会見で見られている?)
  • やたら布施ができる程お金に余裕のある松本さん(警視時代の蓄え)
  • 利き手が左手
  • 粧子ちゃん殺害後の会見の佐伯さんは「語気を荒げ」、松本さんの見た会見の捜査一課長は「震える声」

この小説は再読に意味があると思います。ネタが割れた後でも2度悲しくなれる。
1度目の途中で正体に気づいても、この絶望感、虚無感は決して衰えないこの筆致。

「憶えてないんですか。あなたの息子さんが中学に合格したときに、私は言ったじゃないですか。『娘のこととなると気違いになる』って。忘れたんですか」
───『慟哭』松本/佐伯


おわりに

ちゃんと手がかりがあるミスリードよき。
そしてこの読後感。私好みすぎる。
『失踪症候群』もお迎えしたので、どんどん読んでいこう。どんどんハマっていこう。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。